抄録:
本資料紹介では、西南学院大学博物館が所蔵しているラテン語聖書の断簡「リラのニコラウスによる聖句註解付きラテン語聖書」の表面左頁側を解読する。本資料は、1481年にヴェネツィアで印刷されたインキュナブラ(初期印刷本)の断簡であり、1枚のバイフォリウム(二つ折りにされた支持体)として他の部分とは切り離されて市場に流通していたものである。このバイフォリウム——仮にフォリオAの部分とフォリオBの部分から成るものとする——は表と裏に2頁ずつテクストが記載されており、各頁の内容は右図のとおりである。それぞれの紙面には、中央部に聖書のテクストが記されており、それを取り囲むようにして、中世後期の聖書釈義家リラのニコラウス(Nicholas of Lyra, c. 1270–1349)による「聖句註解」(Postilla)が併記されている。これが本資料の基本的な構成であるが、今回扱う箇所は『マタイによる福音書』第9章の最後の箇所であり、すべて
の章末箇所と同様に、リラのニコラウスによる聖句註解のみならず、ブルゴスのパウルスによる「追記」(Additio)およびマティアス・デーリングによる「返答」(Replica)も記載されている。本解題では、この二つの補遺的記述について解説する。