抄録:
こころの病の成因を、母子を基軸とする関係の中で生起したアンビヴァレンスに求め、それが生涯発達過程で息づいていると考える筆者は、「関係」と「情動(甘え)」に焦点を当てた治療を実践している。それを筆者は「関係発達臨床」と称している。その基本にあるのは、こころの病の治療も本来人間のこころが育まれていく過程も原理的に同じだとの考えである。よって「関係発達臨床」で母子関係あるいは<患者-治療者>関係が修復ないし再生すれば、本来のこころの成長発達への道が切り拓かれていく。そのために治療者に求められるもっとも大切なことは、母子間あるいは<患者-治療者>間に流れている情動の動きを鋭敏に感じ取り、その意味を読み取り、それにふさわしい表現で相手(母親あるいは患者)に映し返すことである。そのためには治療者自身が自ら感じ取ることに自覚的になり、かつ日頃からその感性を磨くことが求められる。なぜならこころを育むためには、その意味がわからず困惑している子どもや患者のこころ(情動)の動きに適切なことばで映し返すことによって形あるものにしてあげることが求められるからである。そのことによって子ども(患者)の体験は共同性を帯びた社会に拓かれたものになるのだ。