抄録:
1980年代後半の株価上昇とその後のブラックマンデー,1990年代後半のITブームとその崩壊,そして2000年代前半の住宅ブームとその崩壊などここ20年以上にわたってアメリカ経済は金融活況とその崩壊という金融に起因する大きな経済変動を経験している。金融が震源地となるこうした経済変動現象に対して,ここ数年の間にアメリカ経済が金融主導型の経済構造に変化したのではないかという問題意識を持つ研究が展開されている。これらの研究はアメリカ経済の「金融化」という概念を使用しながら,金融市場の拡大,金融機関の肥大化,蓄積と金融との関連性,コーポレート・ガバナンスに対する金融の影響,金融を主因とする経済的格差など多様な分析視角からアメリカ経済の構造変化を捉えようとしている。しかし多様な分析視角が提示されているにもかかわらず,「金融化」という概念自体については,曖昧なままである。例えばEpstein は「金融化」が「グローバル化」という概念と同様に多様かつ曖昧なものであるとしたうえで,「金融的動機,金融市場,金融アクター,そして金融制度の国内および国際経済における役割の増大」と非常に広い概念化を図るしかない状況にあるという1)。しかしこのことは「金融化」論を展開するもとになった現象が存在しないことを必ずしも意味しないし,むしろ現象の詳細な分析を通じて概念化が図られている段階であると考えられる。そこで本稿は,「金融化」の概念規定を行う前段階の作業,すなわち金融と関連したアメリカ経済の構造変化を具体的な現象レベルで把握するとともに,それらの現象について「金融化」を主張する見解がどのように解釈しているのかを整理し,そこからどのような論点が提示されるかを示すことを目的とする。以下では,金融市場および金融機関の動向,非金融企業の金融的動向,そして家計部門の金融的動向に分けて,検討する。