抄録:
経済行動理論において最近注目されている「過信」に関して,過信と慢心の相違を明確化し,明示的で操作が容易な過信の定式化を提案する。そして,意思決定理論または経済心理学の分野で従来から指摘されてきている非合理的行動(アノマリー)との関係を検討する。過信と慢心の相違点は,過信の定義を,客観的に合理的な水準よりも過剰な努力水準を選択する場合とし,慢心は逆に,過小な努力水準が選択されるケースとして分類される。その要因は,双方の場合とも,自己の成功可能性だけなく努力における才能を適正に評価できないことにある。この相違点を把握可能な定式化の例を紹介し,さらに,いくつかのアノマリーの説明可能性について言及する。その一つはギャンブルであり,もう一つは,バブル崩壊後の地価の下落と土地保有の関係である。所有する土地から得られる便益を正しく予測しているのであれば,地価が下落し続ける状況下で新たに宅地を購入する行動は,合理的意思決定では危険愛好家のものになってしまい,説明が難しい現象だからである。