抄録:
筆者は,かつて,近代会計学の父であるSchmalenbach, Eugenの大著『動的貸借対照表論』に取組むことによって,会計理論を解明しながら,会計理論と会計制度の関わりを解明したものである。しかし,いつも筆者の脳裏から離れなかった問題は,会計制度,会計理論と「複式簿記」の関わり・・・。複式簿記を機軸にして,『動的貸借対照表論』が構築されていることを解明するにつれて,「ドイツ簿記の19世紀」を解明しなければとの想いに駆られたからである。「産業革命」が世界の各国に波及したのが19世紀。19世紀以降は産業構造が変化するに伴い,特に製造業,鉄道業などが必要とする固定資産の増大は,「資産評価」の問題を引起こさずにはおかない。ドイツでも例外ではない。評価論争を引起こす発端をもたらしたのは,1861年に公布される「ドイツ普通商法」,この評価論争に終焉をもたらしたのは,1919年に刊行される『動的貸借対照表論』の初版(最終版は1962年)であったからである。しかし,筆者は,いつしか「ドイツ簿記の16世紀」に想いを馳せるようになってしまったようである。実際に「ドイツ簿記の19世紀」に取組めば取組むほど,ともすれば残影を追い駆けているにすぎないのではないか,これでは核心に到達しえないのではないかとの想いに駆られたからである。複式簿記が,ほぼ完成される15世紀,16世紀まで遡源しなければならないとの想いに駆られたからである。そのようなわけで,筆者は,「ドイツ簿記の16世紀」に想いを馳せて,複式簿記の歴史の裏付けを得ながら,その論理を解明してきたのである。本来ならば,さらに,17世紀から19世紀までのドイツ簿記を解明して,筆者の脳裏から離れなかった問題に立ち向かわねばならないのかもしれない。しかし,そこまで取組むだけの時間は,筆者にほとんど残されてはいない。そこで,筆者は,これまでに整理してきた目録,「16世紀から18世紀までにドイツに出版される簿記の印刷本の目録」だけでも披露しておくことにしたい。もちろん,そのような印刷本は,先学によって整理されてはいる。すでに,1975年に「英国勅許会計士協会」(Institute of Chartered Accountants in England and Wales)によって編纂される目録『会計資料の歴史目録』(“HistoricalAccounting Literature”London.)である。この目録のうち,いくらかは復刻されてもいる。雄松堂書店によって,1978年から1980年(1st SERIES)と1989年から1990年(2nd SERIES)に復刻された『簿記・会計学名著復刻シリーズ』(“HISTORIC ACCOUNTING LITERATURE”)が,それである。その目録と復刻シリーズを参考にしながら,筆者が内外の大学図書館から独自に収集してきた簿記の印刷本と合わせて,ドイツに出版される簿記の印刷本の目録を作成している。さらに,久留米大学御井図書館に所蔵される『ハーウッド文庫』( “The Herwood Library of Accountancy including Books printed between1494and1900”)を実際に調査しながら,新たに収集してきた簿記の印刷本もこの目録に追加している。ところで,16世紀から18世紀までにドイツに出版される簿記の印刷本の目録を作成して気付くのは,先学に引用される標題と原本の標題が微妙に相違することである。印刷本の標題が微妙に相違するのは,想像するに,原本の標題自体に,類似する活字が混用されているためか,略字,略語が多用されているためか,古文体から現代文に書換えられているためか,いずれかに起因するにちがいない。先学の苦労が偲ばれる想いではある。それにしても,原本と照合して,16世紀から18世紀までにドイツに出版される簿記の印刷本の目録はヨリ完全に作成しておかねばならないはずである。したがって,先学の業績を参考にしながら,このような簿記の印刷本の目録を作成しておくことは,むしろ,後学に残された責務でもあるにちがいない。そのようなわけで,17世紀から19世紀までのドイツ簿記を解明するだけの時間がほとんど残されていない筆者としては,せめてこれまでに整理してきた目録,「16世紀から18世紀までにドイツに出版される簿記の印刷本の目録」だけでも披露しておきたいのである。なお,19世紀にドイツに出版される簿記の印刷本の目録についてであるが,実際に整理してみると,膨大な冊数の目録になるので,これを披露することは紙幅の都合から断念せざるをえない。ご了承をお願いする次第である。表1を参照。