抄録:
学生と企業の双方で合理的な意思決定が行なわれているにもかかわらず,大学新卒者の3年以内での離職率が約3割であるというのは,非常に高いと言わざるを得ない.しかし,転職を行うかどうかを企業での就業条件の評価の大きさで判断する簡単なモデルを設定しても,期待効用理論では約49%の離職率が導かれ,プロスペクト理論であっても約41%の離職率が導かれてしまう.これは意思決定理論でのアノマリーであると言うことができる.現実の離職率が意思決定理論よりも引き下げられている要因についての3点の修正によってプロスペクト理論で現実の離職率を導けるようになった.そのうち1点の修正はプロスペクト理論で複数期にわたる意思決定が分析できる可能性を示すものである.しかし,離職率を下げている要因から,そのまま新卒労働者の早期離職対策となる方法を提言することは難しい.したがって,新卒労働者の早期離職問題では,意思決定における転職判断だけでなく,就職する際のマッチングに関しての要因なども併せて,包括的に考えていく必要がある.