抄録:
現代の環境法政策において「持続可能な発展(sustainable development)」は,基底をなす理念である。この理念は,1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で国際的に提唱されて以降,各国で法政策に取り込まれて展開されるとともに,国際レベルでも,2002年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(リオ+10),2012年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)を始めとする検討やフォローアップを経て,環境配慮を基礎とする社会構造の転換を要請する根幹理念として発展されてきた。近時では,「グリーン経済(Green Economy)」や「グリーン成長(Green Growth)」3 というキーワードに象徴されるように,従来の経済・社会のあり方の抜本的見直しが求められ,経済社会の発展と環境負荷の低減とを両立させるために,環境技術の開発など社会的イノベーションの重要性が強調されている(リオ+20成果文書「我々が求める未来(The future
we want)」)。このように,持続可能な発展は,環境配慮に沿革を有する理念であるが,環境法固有の論理ではなく,現在では,環境を基軸として経済システムや社会構造の発展を指向する理念として意義を有する。そのため,持続可能な発展は,領域横断的な理念として,社会発展水準に応じた理念の精緻化およびそれを実現するための具体的制度設計と実施が課題となる。持続可能な発展を通じて形成される社会(持続可能な社会)において,環境法は,その原理的起点を担う位置にあるが,古典的な規制法を中心とする法秩序維持のみならず,経済システムを含む社会構造全体のイノベーションを喚起する役割も同時に果たさなければ,その法目的をも実現できないことが,近時の法政策動向から明らかになっている。この傾向は,気候変動防止や生物多様性の保全,資源循環を通じた自然資源の保護など,多くの分野に共通するものであり,環境法が「環境」法以外の法政策資源を広範に活用して,持続可能な発展を実現する法政策体制に移行しつつあることを示す。こうした関心のもと,本稿では,持続可能な発展の理念に基づく政策立
案と法制度設計を要請する政策原理(以下では「持続可能性」とする)について,環境法政策における制度化およびその機能条件につき検討を試みる。検討の素材としては,市場経済と環境配慮が先鋭的に競合する資源循環政策に着目して,近時,持続可能性を進展させる法制度化が進められているEUの動向から,EUおよび加盟国における資源効率性の向上をめぐる法政策を取り上げる。具体的な法制度化への影響については,主に先駆的に展開するドイツ法を事例として,日本法への示唆を得る視点から考察する。 以下では,まず,持続可能性の理念展開における資源効率性の位置づけについて,国際的動向を踏まえつつ,EUおよびドイツにつき確認した上で
(以下,1で述べる),次に,ドイツ循環経済法制からうかがえる持続可能性理念の具体化について,具体的には資源効率性の向上に対する要請がどのように組み込まれているかを確認する(以下,2で述べる)。最後に,持続可能性の理念が法制度として機能するための条件と課題について言及して,本稿のまとめとする(以下,3で述べる)。