抄録:
現在の日本の人口構造は、急速な少子高齢化により大きく変化している。その中で、年金や医療をはじめとする社会保障制度における負担と給付の在り方について、どのようにあるべきなのかが重要な課題となっている。2008年末、政府が決定した「中期プログラム」においては、社会保障費の安定的財源確保のため、抜本的税制改革を行うとされていたが、その改革の中心は、消費税増税による財源確保である。個人の所得税については、各種控除や税率構造の見直し、高所得者の税負担の引き上げなどによって所得再分配機能の充実を図り、中・低所得世帯の負担の軽減や金融所得課税の一体化なども提案されている。しかし、一方で基礎年金においては、厚生労働省が2004年の年金改正において、国民の負担を増加させないために、基礎年金の国庫負担を2分の1に引き上げるとしたが、これは、結局、国民の負担を増加させたに過ぎない。なぜなら、国庫の財源は税であり、その負担率を増加させたということは、国民の負担も同時に増加させたことに繋がるからである。単なる税率の増加は、単に国民一人ひとりの負担を増加させただけであり、本来の負担抑制になっていない。つまり、社会保険料の引き上げをしない場合でも、国庫負担を引き上げれば、それは、国民生活に重くのしかかることにつながるのである。かつて、民主党がマニフェストの中で、スウェーデンの年金制度を参考にし、所得比例年金と最低保障年金を組み合わせた新しい年金制度の導入を提案していた。この方式によって、低年金、無年金問題を
解決し、転職にも対応できると掲げている。しかし、この中でも税制の抜本的改革を中心としたものに留まっているだけで、社会保険料を含めた財源全体の改革には触れられていない。本稿では、現在の税と社会保障の一体改革が、単なる国民負担の増加に繋がるものであり、公的年金制度の根本的な問題である財源の確保と負担と給付の不公平性を解決する施策となりえていないことに言及し、負担と給付のバランスを図るためには、どのような制度改革が必要なのか、また、新たな財源をどこに求めるべきなのかについて方向性を示すものある。