抄録:
本稿は平成25年度の2年次英語教育で,シャーロック・ホームズのテキストを使った授業の実践報告と,初回,及び学期末アンケートの結果を分析・考察するものである。近年,英語運用能力の中でも特にコミュニケーションが重視され,TOEIC,TOEFL,英検などの数値がコミュニケーション能力の評価に利用されることが多い。しかしこの「コミュニケーション」が指す意味は漠然としており,学生の間でも「英語を」話したいという意見は目立つものの,「英語で何を」話したいのか,具体化した意見はまれであった。現代社会が求めるコミュニケーション能力と,学生が身につけたい,あるいは身につけなければならないと考えるコミュニケーション能力,また外国語教員が考えるコミュニケーション能力が乖離している今,ことばに携わる教員として何をすべきか模索した。英語訳出による日本語力の向上,他者理解,異文化理解,会話の糸口を得るための情報収集と表現力の磨き方などを提示したところ,学期末に実施したアンケートからは,学生個々人に様々な学びがあったこと,また本当の意味での「コミュニケーション」を楽しめる素養を身につけた学生像が浮かび上がった。