抄録:
医療保険,公的年金,失業保険等の社会保障システムには困窮者救済の側面があるために,再分配政策の機能を有するものとみなされている。しかし,現実には再分配政策の手段としては十分に機能していないとの指摘もある。一方,社会保障は情報の非対称性による民間保険市場の失敗をカバーするための政策手段である,という観点からの指摘もある.それに加えて最近では,行動経済学的観点から個人の長期的意思決定の失敗を補うために執られる,パターナリスティックな政策の側面を強調する議論が提示されている.この論文は,それらの論点を比較することにより,社会保障システムの必要性についてもっとも説得的なロジックを提供しているものは,パターナリスティックな政策の議論であることを明らかにしようとするものである。