抄録:
この論文は,Maslow の欲求発達階層説として知られる考え方と整合的な効用関数について考察するものである。欲求の発達階層説とは,生活環境の向上や心身の成長にともなって,優先される欲求の内容と行動が,安全や食欲といった原始的なものから社会的な人間関係に関するものへと発達していくとする理論である。究極の段階では,自己実現が最終目標に掲げられている。Maslow の理論は,ライフスタイルという消費者の性質の分析の基礎を与えるものとされている。これに対して,従来の効用理論では,あらゆる欲求は並置される形で扱われてきている。しかし,効用関数を修正して発達段階を導入することは可能であり,それはいくつかの興味深い特性を有する。その1つは欲求階層の転換点での不連続性であり,そこから生じる危険回避度の変化の態様にある。