抄録:
アメリカンボードが19世紀中期(1851-1880)に宣教活動を始めた地域の1つに日本がある。1869年にペンシルバニア州ピッツバーグ市で開催された第60回年会が日本最初の宣教師となるグリーン(Greene, Daniel Crosby, 1843-1913)に与えた任命書は当時の宣教方針であった「自治(Self-Governing)・自給(Self-supporting)・宣教主体(Self-Propagating)」の特色をよく示している。
1 グリーンに託された伝道の目的は,独立自給の教会の形成にある。
2 日本での働きは,直接的な福音宣教であり,文書活動や教育活動ではない。
3 日本人の牧師を育成し,信徒による献金があれば教会を組織するように。
4 伝道地の決定はグリーンに任す。
5 日本に着任後は日本語の習得に務め,直接キリスト教伝道が可能になるまで,聖書または他の教科を教えて良い。
6 他教派の宣教師と親接な関係を保つ。
7 アメリカン・ボードに絶えず通信を送る。
8 会計としてアメリカン・ボードの資金運用を正確に行う。
19世紀中期におけるボード本部の宣教方針を前期と比較すると,地域教会の「自治・自給・宣教主体」に向けて厳格に規定されていたことが分かる。他方,宣教対象となる教会は地域社会が抱えた状況の中に立たされていた。だから,ボード本部の宣教方針に直ちに対応できるわけではなく,日本の社会はまさにそうであった。したがって,派遣された宣教師は本部の方針と教会,それと地域社会の状況の間にあって,可能な道を探ることとなる。
グリーンの場合はどうであったのか。彼の思想と行動を19世紀中期を中心に探ってみたい。