抄録:
1992年、生活科が低学年社会科および理科に代わって開始され、すでに25年という年月が経った。当初、合科的な学習としてさまざまな授業実践の研究が進められ、取り組みが紹介されていたが、時が経つにつれ授業実践が現場でマニュアル化され、地域というそれぞれに異なる教材を対象にしてはいるものの、指導方法や授業の進め方などは、多くの小学校でほぼ似たような実践が行われるようになっている。こうした状況は、生活科だけでなく総合学習の時間の取り組みにも同じことが言え、何をしたらよいのか戸惑いながら、互いの指導内容や方法を発表しあったような当初の活気が感じられなくなってきた。筆者が共同研究者として参与していた教員組合の生活科・総合学習の研究部会でも同じような声が聞かれ、やりやすくなったが、積極的に地域に出かけ工夫しながら創っていったころのような面白さはなくなり、マンネリ化すら感じられるといった声まで聞かれている。本論考でも分析を行った歴史教育者協議会の会報である『歴史地理教育』においても毎号収められていた生活科の実践紹介も2006年704号以降ほとんど見られなくなっている。しかし、現在の学習指導要領が求める学力観(1)においても体験は学力の基底として捉えられており、生活科や総合的な学習の時間において実施される体験的な活動や、体験を通じて喚起される学習者の気づきというものが学力の向上に大きな役割を果たすものとして考えられている。そこで、本論考では、今日定着してきた生活科の授業実践は、生活科開始以前の低学年社会科の活動と比較したときに、児童は体験を通じてどのような学びをしているのか、またそれは低学年社会科のものとはどのように異なっているのか、さらに生活科の体験的な活動は学力を向上させるような知識や能力の基盤作りとなっているのかを明らかにする。