抄録:
「発達」の「障碍」の核心に迫るためには、乳幼児期早期における素質とし
ての子どもと養育環境としての養育者とのあいだで繰り広げられるダイナミッ
クな絡み合いの様相を直接観察し、その内実を捉えることが不可欠である。そ
こで筆者がこれまで蓄積してきた母子ユニット(MIU)での知見をもとに、関
係の病理のありようを先に解説した(講演「アタッチメントと発達の問題を
『関係』から読み解く」、人間科学論集本号に掲載)。それを一言で言えば、母
親と関わるなかで子どもに「甘え」のアンビヴァレンスが強く働き、その関係
は負の循環を生む。そこで強い不安と緊張に晒される子たちは様々な方法でそ
れに対処するようになる。そこで生じた多様な対処行動がこれまで精神医学の世界で「症状」として抽出されてきたものである。よって、本来目指すべき治療は「症状」の解消ではなく、その背後に蠢いている「アンビヴァレンス」という独特な情動(甘え)の動きに焦点を当てるところにある。そこで問題となるのは、アンビヴァレンスに焦点を当てた治療とはいかなるものかということである。そこで本稿では、臨床家が「アンビヴァレンス」をいかに捕捉し、それをいかに治療的に扱えばよいかを具体的に論じた。