抄録:
アルゼンチンの社会学者S.サッセンは,情報通信技術の発達が,人口や経済活動の分散をもたらす一方で,世界の経済を統治し,世界の文化をリードする重要な機能は,ごく限られた大都市に集積されていることを指摘し,その結果形成された都市を「グローバル都市」と呼んだ。グローバル都市には,金融・法律・会計・経営など高度な専門サービスを大企業に提供する企業が集中し,世界中の経済活動を支配・管理している。そして,高度専門職に従事する高所得者層が新しいライフスタイルを生み出す一方,移民労働者を含む膨大な低賃金労働者が都市の産業を底辺で支えており,世界的な規模で,格差拡大は加速している,と論じている2)。こうしたグローバル都市には,国内外の資本が集中し,多様な展開をみせる広告などメディアの力は,人々の生活に大きな影響を与えている。東南アジア有数の大都市であるタイのバンコクも,人口が一極集中の様相をみせるとともに,経済発展に伴って増加してきた都市中間層,世界中からの観光客,移住労働者などが集まるグローバル都市の様相を見せており,様々な人々を対象にした広告があふれている。本稿は,タイにおける広告に関する先行研究を踏まえ,広告の特性をタイの社会・文化のありよう,タイ人の価値観・ライフスタイルなどとの関連で考察するものである。まず初めに,タイの広告事情とその歴史的な変化を述べ,次に,タイの社会文化的特性が広告にどのような影響をもたらすのかを考察した後,タイ広告のグローカルな反応の一端を紹介したい。