抄録:
1980年代中頃から、プラザ合意に起因する急激かつ大幅な円高圧力を契機に日本企業は、売上げの減少や輸出の採算悪化を乗り越えるために積極的に海外直接投資を行い生産拠点を海外にシフトしてきた。その結果、日本企業は東南アジアをはじめ、中国を中心に国際生産分業ネットワークを構築し、国際事業展開を拡大・深化させてきた。近年、日本企業は国際事業活動を積極的に展開した結果、海外現地法人は着々と成果をあげ、2012年度に日本側出資者向け支払い(配当金、ロイヤルティなど)は、前年度比16.7%の 増加と過去最高水準となり、3.2兆円の利益を本社企業に還流した。その中で、製造業の海外現地法人による日本側出資者向け支払いは2兆円に達した。韓国企業は1990年代に入ってから海外直接投資を本格的に行い、1997年
のアジア通貨危機を機に低迷が続いたが、国際通貨基金(IMF)の管理下で行われた金融構造改革によって通貨危機不況を乗り越え、2000年に海外直接投資額が50億ドルを超え、2006年に100億ドル、2007年に200億ドルを突破した。韓国企業の海外直接投資は2008年のアメリカ発の金融危機以降やや停滞したが、2011年に再び増加に転じた。こうした積極的な直接投資
を行っている韓国企業は日本企業と同じくアジアを中心とした生産拠点を構築している。アジア地域では日韓企業による国際生産分業の恩恵を受け、生産拠点の産業集積が進んでいる。韓国企業の海外現地法人のパフォーマンスをみてみると、2012年度に韓国側出資者向け支払い(配当金、ロイヤルティ、貸出利子など)は148億ドルに達しており、その中で製造業の海外現地法人の韓国側出資者向け支払いは109億ドルに達した。前述したように、日韓企業の海外直接投資の共通点は、共にアジアを中心とした生産拠点を構築することにある。そして後述するように、日韓企
業がアジア生産拠点を活用することによる企業内貿易は海外現地法人の輸出入総額を占める割合が非常に高いということを留意しておきたい。王[2006]は海外進出している日系電気機器企業136社の2000年から2005年にかけてのセグメント情報からその地域別企業内貿易総額、地域別営業利益率などのデータを抽出することによって、海外現地法人のパフォーマンスに対する企業内貿易の影響を検証した。その結果、特にアジア地域において企業内貿易の割合が高いほど、その現地法人の利益率が低くなる傾向があることがわかった。そして王[2013]は2001年から2010年にかけてのセグメント情報を公表する日本製造業企業529社と、韓国製造業企業356社
をサンプル企業としてそれぞれの売上高営業利益率に対する企業内貿易の影響を検証した。その結果、日本企業の企業内貿易は本社企業の売上高営業利益率に正の影響を与えている一方、韓国企業の企業内貿易は本社企業の売上高営業利益率に負の影響を与えることがわかった。つまり、グループ企業間の企業内貿易はその利益パフォーマンスに影響を与えることがわかった。しかし、グループ企業間の企業内貿易が如何に企業の利益パフォーマンスに影響を与えるか、どのようなメカニズムで作用するかはまだ明らかにされてない。本稿では、限られた資料を利用しながら、企業内貿易の構造と海外現地法人のパフォーマンスとの関連性を試論的に考察することにする。