抄録:
ユーロ危機の要因として,域内の経常収支不均衡や競争力格差,あるいは競争力不足,などの点がこれまで度々指摘されてきた。しかし,それらが,ユーロ崩壊の直接的契機になるか,と言えば決してそうではない。さらに,そうした諸問題が仮に解消されれば,欧州は危機から脱出できるか,と問えば,これも定かでない。むしろ,ここで最も恐れるべき点は,一触即発的にユーロ圏を崩壊させてしまうメカニズムが,欧州に潜んでいる,という点である。それは,ファイナンシャル・タイムズ(以下,FTと略)紙の有力記者W.ミュンショー(Münchau)も強調するように,欧州の全般的な銀行取付け,という現象を指す。これをいかに阻止するか。欧州にとって,それこそが喫緊の課題とならなければならない。確かに,今まで欧州中央銀行(ECB)は,非伝統的な方法を駆使しながら,銀行危機,さらには,それと密接に連結するソヴリン・リスクを防ぐことに精力を注いできた。しかし,後に詳しく論じるように,それには一定の限界があった。そうだとすれば,ECBの政策に取って代わる新たな方法が見出されねばならない。このような状況に直面して,欧州は,銀行の破綻処理や預金保証を含み込んだ新しい体制づくりを目指した。これが,財政同盟を視野に入れた銀行同盟(banking union)と呼ばれるものであった。そこで本稿では,ECB による銀行・国家救済策の限界を指摘した後に,この銀行同盟がどうして必要なのか,それはいかなる考えの下に練られてきたか,それに対する諸国の反応はいかなるものであったか,そして,この同盟案はいかなる意義と課題を持つか,などの点について検討を加えながら,将来の欧州における財政同盟のあるべき姿を探ることにしたい。