抄録:
中国における新たな医療保険制度に移行して以来、数年を経た。制度の仕組みを巡り、様々な改革が行われた。たとえば、城鎮職員医保の対象者を拡大したり、三大医療保険に基づき、農民工医療保険、補充医療保険及び公務員補充医療保険などの補助的保険を拡充した。これで、医療保険の加入率が大幅に上昇してきた一方で、「受診が難しく、医療費が高い」という問題を根本的に解決したという実感が湧いていない。そもそもこの問題の原因は医療保険制度自体の問題だけではないと考えられる。医療保険に密接な関係がある医業の現状を考察すべきである。これに対して、日本では地域連携の方面から医療の改革を行うことが提案されている。これは既発表の拙稿「中国の医療保険制度の歴史的形成過程と「限局性」」で討論してきた医療保険の限局性に応じると考えられる。本稿は限局性に応じる問題を解消するため、地域医療連携の有効性を主張するものである。まず第1節で、近年の医療保険についての改革を説明し、第2節で、医業の現状を患者の受診の傾向、医師・看護師数の不足と偏在、僻地の医療機関の減少と医師不足、病気の傾向の面から論ずる。第3節で、日本医療保険制度の仕組みの現状や改革方向を紹介する。その上で第4節では、コモンズの悲劇、比較優位性、マッチング理論に触れながら、地域連携モデルを作る原理を紹介していく。最後に、地域連携モデルを構想するうえで、今後医療保険及び関連の分野についての対策を提案する。