抄録:
先諸国においては、多くの国でわが国と同様、少子高齢化を迎え社会保障制度における改革の必要を余儀なくされている。年金制度も例外ではなく、少子高齢化に対応すべく様々な施策が実施されている。この少子高齢化よって大きな問題となるのが財源である。少子高齢化が急速な進行をする以前は、現役世代、つまり現在の労働生産者による年金受給者の給付を支えるというシステムによって、制度を維持してきた。しかし、現役世代の減少と高齢者人口の増加によって、現在のシステムでは制度を維持していくことが不可能な状況にある。そこで、制度の維持可能性を高めるために、各国では年金の支給開始年齢の引き上げや給付額の削減などを行っている。これは、わが国も同様で、急速な少子高齢化に対応するためには、必要不可欠な施策であるといえる。しかし、老後の所得保障を自助努力とする考えを持つアメリカは、社会保障税という税目を作り、各個人がそれを負担していくことで老後の所得の財源としている。これにより、国家財政からの投入を行うことを必要としないため、財源問題においては解決できる。一方、社会保障の先進国といわれるスウェーデンにおいては、わが国よりもいち早く少子高齢化を迎えており、年金制度においても様々な改革を行って来た。以前の制度と大きく異なった点としては、二階建ての保障制度を一階建てにして、現役時代の所得に応じた保障制度とした点である。さらに、低所得者や無年金者に対しては、最低保障年金制度を創設し、すべての国民に対しての老後の所得保障を行うこととした。また、年金制度において、常に比較されるのが先進国の制度であるが、ここでは、あまり知られてはいない中国の年金制度についても触れている。中国における年金制度は、先進国のそれと単純に比較できない条件も多いが、他国と同じく高齢化の波は確実に押し寄せており、広大な国土と人口規模から、年金制度においても地方格差が生まれている。財政状況も地方の省によって格差があるため、その格差を解消すべく改革の必要性を求められている状況にある。その他の国においても、年金の支給開始年齢の引き上げをはじめとした様々な改革より、少子高齢化にも対応できる制度づくりを行っている。本稿では、わが国の少子高齢化に伴う年金制度の維持可能性について、諸外国の年金制度と財政状況を比較し、現在、わが国が抱えている年金制度問題を明らかすることによって、今後、益々進行する少子高齢化の状況においても対応できる年金制度の構築に必要な施策の方向性を示すものである。