抄録:
幸福度分析に対する関心は近年高まりを見せ,GDPに代わる,または補完する指標として幸福度を用いようとする動きがある.その背景には格差問題,環境悪化などのGDP分析だけでは把握しにくい問題が発生してきたことによる.しかし幸福度がGDPに代わる経済状況の指標となるためには,幸福度を構成するカテゴリーの中で,どのカテゴリーを優先して改善し,維持していけばいいのか方向性が定まっていない点と,イースタリン・パラドックスと整合的である経済モデルが作成されていない点を解決しなければならない.そこで,所得ではなく,各財の消費に関して参照点を設けるプロスペクト理論の応用で,需要関数を導出できるモデルを紹介する.このモデルはイースタリン・パラドックスに整合的であり,評価関数の幸福度のカテゴリーごとの消費を見比べることで政策提言ができるという方向性を与えるものである.だが,残された課題として,評価対象の変化分を決定する基準となる参照点はどのように形成するのか,また,幸福度を構成するカテゴリーを消費として見る際に具体的にどのようなものがカテゴリーごとに消費されるのかという問題が残る.