抄録:
本稿は、Organization Scienceに掲載したBezrukovaら(2009)の論文“Do Workgroup aultlines Help or Hurt? A Moderated Model of Faultlines, Team Identification, and Group Performance” について、ダイバシティがグループにどのような影響をもたらすかを、「集団断層(group faultlines)」という概念を用いて、集団断層における中程度モデル、チーム帰属化、グループパフォーマンスについて論じた。結果、社会化カテゴリーと情報ベースカテゴリーに基づいた異なる集団断層が、グループパフォーマンスに異なる影響を及ぼすかを示した。既存のダイバシティ研究におけるパフォーマンスとの関係について、ダイバシティを高めることで、結果的に財務的基準の向上を相関的に示すだけに留まり、それを裏付ける理論が構築されていない(谷口、2005)。つまり、グループ内の対立が、表層的ダイバシティと深層的ダイバシティの違いによって、グループパフォーマンスに与える影響は異なる。彼女らは、集団断層を「強さ(グループ内のメンバー間のデモグラフィーの範囲)」に加え、「隔たり」(例えば、2人の20歳のメンバーは、2人の50歳のメンバーより、小集団内の2人の25歳のメンバーのほうが年齢的にも近い)といった2つの尺度を用いて、グループパフォーマンスを調べた。結果、社会化カテゴリーの集団断層があるグループでは、チームの裁量による裁定が低いことが明らかになった。集団断層の隔たりは、社会化カテゴリーの集団断層があるグループでは、その強さに悪影響を及ぼし、情報ベースの集団断層があるグループでも、類似した悪影響を及ぼすことが判明した。チーム帰属化は、情報ベースの集団断層があるグループのパフォーマンスを強める働きがあることも判明した。集団断層という概念は、Lau & Murnighan(1998)の提唱から始まった。当時は、グループ形成と成果に直接的かつ潜在的な波及効果をもたらすとの見解であった。Bezrukovaらの論文では、ダイバシティとパフォーマンスの関係を、グループ内の対立を集団断層の視点で、3つの視点から考察した。まず、集団対立の要因を、表層的ダイバシティと深層的ダイバシティの違いによって、グループに与える影響は異なる。次に、集団断層において、既存の研究ではその「強さ」のみに研究の対象にしていたのを、Bezrukovaらは、集団断層の「隔たり」という視点で、グループパフォーマンスとの関係性について調べた。結果、集団断層の「隔たり」の度合いによって、パフォーマンスが左右することが判明した。最後に、集団断層が、表層的ダイバシティまたは深層的ダイバシティの違いによって、グループパフォーマンスとの関係は、メンバーのグループに対する「帰属化」によって大きく異なる。したがって、本稿は、Bezrukovaらの論文から、①表層的ダイバシティと深層的ダイバシティによる対立、②集団断層の「隔たり」という概念、③集団断層の違いとグループパフォーマンスとの関係を考察する。また、本稿ではフォールトラインを「集団断層」と表記する。