Abstract:
今日の欧州のソヴリン・リスクは,周知のように,銀行危機と密接に結びついている。したがって,欧州にとり,危機から脱出するためには,まずもって,この両者の連関を遮断する必要がある。銀行危機の解消は,その前提となる。とりわけ,欧州における銀行危機は,深刻な問題を引き起こす。欧州の金融システムの中核に,依然として銀行が据えられているからである。しかも,それらの銀行は,大銀行を中心にユニヴァーサル・バンクの形をとる。それは,通常のリーテール・バンキング以外に,投資バンキングやトレーディング活動を含む。さらに,かれらの一部は,保険サービスまでも組み込んだ巨大金融コングロマリットの様相を呈す。そして,かれらの相互連結性は非常に強い。その結果,欧州の銀行危機は,あまりに大きくて倒産できない(too big to fail),あるいは,あまりに結びつきが強くて倒産できない(too interconnected to fail),という問題を生み出す可能性が極めて高い。そうであれば,一刻も早く,銀行システムをより安全で健全なものにすることは,欧州の金融システムの安定にとって至上命令であろう。そうした中で,EU 域内市場監督の最高責任者であるB.バルニエ(Barnier)は,2012年2月に,フィンランド財務相のE.リーカネン(Liikanen)を長とした,「銀行の構造改革に関する高度専門グループ(以下,グループと略)」を立ち上げて,欧州銀行システムの根本的改革に着手する。その背後に,バルニエ自身の危機意識があった。今や,欧州には,銀行の十分な域外での監督もないし,また,域内での監督もない。さらに,かれらの十分なリスク・マネジメントもない。彼は,このように認識したのである。この「グループ」は2012年10月に,一般に「リーカネン・レポート(以下,レポートと略)」と称される調査・研究報告書を発表する(2)。そこでかれらは,欧州銀行システムの改革案を様々に提示した。本稿では,この「レポート」の内容を跡付けながら,その意義と課題を考えることによって,欧州の今後のあるべき銀行システムを探ることにしたい。そのことはまた,将来の欧州銀行同盟の設立を視野に入れたものである。