Abstract:
市場メカニズムは基本的にうまく機能するという説と,需要があるところには供給が生まれるという説は,幅広く受け容れられているものといってよいであろう.何事にも例外があるように,前者に関しては囚人のジレンマやレモンの原理等が大きな疑問を投げかけてきた.後者に関しても,例外はある.というより,後者が満たされてなければ,前者の機能は阻害されてしまう.需要があるにもかかわらず供給が消滅するケースのなかには,ミクロ経済学の基礎的な知識の1つだである操業停止点も含まれている.この論説では,供給がなくなる状態が,意外に多方面で見られることを簡単なモデルで検討する.供給からの撤退は,もちろん企業の合理的判断の一部であるが,経済厚生的には損失をともなう場合もある.