抄録:
プロスペクト理論に代表される非期待効用理論を理論モデルに導入した応用分析は,あまりなされていない。この論文は,一方の部門に生産性のリスクのある2部門モデルを用いて,期待効用理論とプロスペクト理論との意思決定方式の違いが資源配分に与える効果を比較し,プロスペクト理論のケースの方がリスクのある部門の生産量が増大するという結論を導いている。比較に際しては,2つの財に対する選好の違いではなく,リスクに対する態度の違いのみが焦点になるようそれぞれの関数が特定化される。なお,ここで議論するリスクは,いわゆるモンティー・ホールの問題と見かけ上類似している。しかし,モデルに導入される株式によって,異なるリスクになっている。その点を明示化するため,生産性が確定する前に結果に関する新規情報がもたらされるというモデル設定を行う。現実の経済では,結果が確定する前にリスクに関する新の情報がもたらされることがしばしばあるが,リスク情報の変化を検討対象とした経済心理学の研究はほとんどない。ただし,モデルの構造から,ここでの新規情報は実体経済には影響しないものになっている。