抄録:
階層型効用関数の特定化によって,需要の価格弾力性が1未満で一定の市場と1より大になる市場とが併存する状況を導出し,マークアップ原理による価格形成が必然的になる市場モデルの例を提示する。弾力性が1より大の場合には,独占企業の価格形成であっても費用条件でのみ価格が決定され,マークアップ原理と同値のものとなる。弾力性が1未満の場合では独占的価格形成が意味をなさなくなるが,マークアップ原理による価格形成を採用するならば不完全競争市場も存在可能になる。価格が費用条件で決定されるマークアップ原理の下では,地域間価格差別にも通常の理論的見方とは異なる視点が出てくることになる。例えば,全国一律価格体系でチェーンストアを展開するファーストフード企業等が,地域ごとの費用格差を理由に価格差を設けることについても理論的説明を与えることが可能になる。さらに,価格形成がマークアップ原理でなされる経済のミクロ的基礎付けの例が示されれば,物価水準を決定できる理論モデル構築の基礎にもなりうるであろう。