Abstract:
階層型効用関数の応用分析例を紹介する。階層型効用関数では,通常の限界代替率の性質が満たされないために,需要関数の導出方法も特殊となるだけでなく,導出される需要曲線にも特異な性質がある。その特性を際立たせるものとして,階層型効用関数を有する個人で形成される2部門モデルを考察する。2段階の各階層財の生産にそれぞれの部門が特化していると仮定すると,個人の同質性が仮定されなくても両部門の実質所得均等化が達成されるケースがある。これは階層型効用関数を前提としたときの著しい特徴である。なぜなら,通常の効用関数を前提にした一般均衡モデルでは,個人の同質性を仮定しなければ所得均等化は帰結しないからである。さらに,各階層財の要素を混合して含有する複合財を定義し,複合財を賦与された個人間での交換が生じるためには,個人間で階層財を構成する要素の解釈が異なるという条件が必要であることも示される。この点は,階層型効用関数のもう1つの特徴ということができる。さらに,複合財のケースにおいては,消費者をセグメントしてターゲットを絞るマーケティングが合理的になることにも言及される。