抄録:
この論文は,他者への譲渡可能価格による価値形成という考え方を用いて,選好逆転現象の説明可能性を考察したものである。そこでは,仲澤(2007)で提示した欲求発達階層型効用関数を用いると,期待効用理論よりも説明可能性が向上することも示される。階層型効用関数は,部分的に危険愛好的選択結果をもたらすことから,過信的行動も意味する。そのような個人は,ハイリスク・ハイリターンの籤に高い価値を見出す可能性がある。それに対して,危険回避的個人はローリスク・ローリターンのプロスペクトを好むであろう。このように異質な個人が混在すると,選好逆転現象において観測される籤の価値は,他者への譲渡可能な額の期待と解釈できるようになる。そうであれば,低リスクのプロスペクトを好む個人が,高リスクの籤を高く売ろうとすることも不自然でなくなる。価値とは個人の評価がどれだけかという側面のみではなく,社会のなかで実現できるものがどれだけかという側面もある。その観点から見れば,究極のアノマリーと称される選好逆転現象も,合理的行動として解釈されることになる。