抄録:
急速な少子高齢化のなかで,公的年金制度の保険料未払者の急増が問題視されている。また,大規模地震の発生のたびに地震保険加入者の少なさも取沙汰される。すなわち,任意加入による保険の機能不全が危険視されている。そこで,税を用いた保険制度,つまり強制加入が論議されている。しかし,任意加入が整合性のある意思決定の結果ならば,強制加入は厚生の減退を意味する。それは,整合性のある意思決定であれば,いかなる基準に基づくものであっても同じである。強制加入が正当化されるためには,なんらかの錯誤または非整合性が意思決定に必要である。この論文は,そのような状況を経済心理学の文脈で記述し,少子高齢化による低成長経済での強制加入の正当化の可能性を検討するものである。