Abstract:
本稿の目的は,株式会社ジェー・シー・オー(以下,JCO)で行われた一つの逸脱作業を検討することにある。JCOでは1999年9月30日に臨界事故が発生したが,逸脱作業は臨界事故発生時のみならず,事故から15年ほど前の1985年の時点から幾度となく行われていた。そのようななかで,本稿では,ウラン再転換加工が行われる転換試験棟が改造されてから最初の作業である「常陽」第3次操業の段階から行われることになった逸脱作業の背後にある組織的メカニズムについて,「規則間の垂直的不整合」の観点から詳細に検討・解明する。以下では,次の順序で議論を行う。第1節では,JCOの事業概要と再転換加工工程,JCO臨界事故の全体像について説明する。第2節では,「常陽」第3次操業の概要と,そこで行われた逸脱作業を説明する。第3節と第4節では,「常陽」第3次操業で行われた逸脱作業を,作業にかかわる規則間に生じた垂直的不整合(具体的には,臨界安全管理規則と作業工程の間の不整合)の観点から明らかにする。最後に第5節では,規則からの逸脱が生じたメカニズムを整理したうえで,このメカニズムを既存の組織論の議論(おもに,官僚制理論や公式組織論,新制度派組織理論)との関連から考察する。