抄録:
空間に関する知識や記憶の表象は、さまざまな観点から論じられてきている。たとえば、建築学や都市設計、地理学、心理学などがあげられよう。その中の心理学では、さまざまな知識の中の1つとして、空間の知識の獲得を問題空間としてとらえる立場や、どのような認知的な特徴があるかを検討する立場、記憶の知識の構造を求める立場などがある。Sholl(2000)は、現在の空間イメージの研究は、物理的な尺度の正確さが必要なナヴィゲーション行動と、正確さを必要としない空間判断との間で、揺れ動いていると指摘している。それは、発達研究や経験量を伴う研究において、次第に知識は精緻化され、統合されていくという一般的な発達の立場と、記憶の構造は体制化を伴うという認知研究の立場を反映しているためでもある。これら2つの立場の融合を図り、あいまいな空間イメージの特徴を明らかにすることが本研究の目的である。従来の研究には、空間内の移動などを伴って断片的に形成される空間情報と、卓上課題や世界地図などのように、移動によるのではなく、視覚的に全体像を一枚の絵として受け入れる空間情報を取り扱った研究が混在している。そこで、本研究は、歩行による移動可能な空間範囲における空間イメージについて研究を行う。本論文は、大きく3つの流れから構成されている。第1部分は、これまでの研究の概要とその問題点の指摘である。第2部は研究1 発達段階の確認である。第3部は、研究2 発達した空間イメージに含まれる認知活動の同定とその検証である。