抄録:
都市小説(例えば『罪と罰』)と推理=探偵小説を切り分けるもの、それは主人公にとって、都市の解読に進み出ることが、犯跡の追求ではなくて、かれらのアイデンティティそのものを都市の表層の背後に隠された記憶のなかに確認してゆく行為を意味しているところに求められる。都市の迷宮に滑り入ることが、同時に内面への旅に繋がっている奇妙な構造に、近代的な都市のパラドクスがある。(前田 愛『都市空間の中の文学』)都市空間に足を踏み入れる者はパノラマの中にいるように周囲を見回した。(ペンヤミン『ボードレールにおける第二帝政期のパリ』)