Abstract:
本稿は、日本の伝統的生活様式である茶の湯・茶道が、より広い文化的意味における教育のテーマとして論じられる。日常生活に根ざした茶の湯は、五感すべてによる鑑賞というユニバーサルな総合芸術でもある。個人の専心を強調する伝統的日本文化の中にあって、茶の湯は専心・没入が、同時に他者との交流と共に与えられる点でも固有のものである。奇しくもこれは、教室での知的・記号的内容に関わる「学習」との共通性を示す。茶室においても教室においても、子ども・学習者は、集中(あるいは思考)とコミュニケーション(会話あるいは所作)による、美的(知的でありかつ感性的な)経験を通して、知的情操および道徳的情操を育むことができる。茶の湯を文化的産物の一例示として、教育における「知」の捉え直しを試み、学校教育の基盤はすべて情操教育にあることを示したい。