Abstract:
「除墨帳」とは、釈放後に更生が認められ入墨を抜くことが許可された入墨者に関する記録である 。法量は縦二七・六㎝ ×横一九・八㎝ 、全八七五丁からなる竪帳一冊で、現在熊本大学附属図書館に寄託される永青文庫資料のひとつである。これは、宝暦の改革以降、熊本藩の刑政を担った部署である刑法方において管理されていた文書であり、天保四(一八三三)年五月に刑法方が保管している文書記録の点検を行った際の記録「御刑法方諸帳目録 天保四年五月改」によると 、「除墨帳」は「古諸帳」に分類されていることがわかる。現用文書である「当分物」に分類されていないことから、「除墨帳」は刑法方の文書類の中では比較的参照する機会が少ない半現用の文書であったと考えられる 。除墨を制度化した熊本藩の事例は他藩ではみられないことから、本史料の持つ意義は大きい。 本史料は前半部と後半部とでその内容が異なっている。前半部は宝暦五(一七五五)年から天明九年(寛政元(一七八九)年)までの間に入墨となった者の記録であるのに対して、後半部は寛政七(一七九五)年から明治三(一八七〇)年までの除墨に関する記録となっている 。「除墨帳」は既に一部が翻刻されており、小林宏氏・高塩博氏編『熊本藩法制史料集』に収録されている。そこでは「除墨帳」の冒頭の除墨制度創設の提案書と、その後に続く宝暦五年四月十九日から宝暦十三年十二月二十五日にかけての入墨の記録、後半の除墨の記録が中略を挟みながら抄録されている。そのため、入墨かつ除墨の外観をとらえるには不十分な点もあるため、先学の成果に依拠しながら、『熊本藩法制史料集』に未掲載部分を翻刻し、以下解説していくことにする。