Abstract:
近年の日本においては,低金利政策による低金利の環境が長く続き,銀行の収益が悪化の一途をたどっている。より多くの金利リスクをとることにより,収益を得ている銀行も少なからず見られる。そのような環境の中,2019年3月決算から国内基準行において,バーゼルの銀行勘定の金利リスク(IRRBB:Interest Rate Risk in the Banking Book)に関し,金利リスクについての資料開示が開始された。
銀行における業務は,貸出業務,預金業務を中心とした取引である銀行勘定と,短期的な売買差益の確保を目的とした取引であるトレーディング勘定に分類される。銀行勘定の金利リスクとは,金利の変動により銀行勘定の資産,負債の経済的価値と収益が変動することにより生じるリスクである。市場金利が変化すると,銀行における資産・負債のキャシュフローが変化し,銀行のバランスシートにおける資産と負債の価値,及び損益に影響を与える。銀行勘定の金利リスク規制は,各金融機関の金利リスク水準の把握と計量方法の高度化により,銀行経営の健全性を定期的に確認し,健全な金融システムを維持することを目的としている。
本稿では,2019年7月から8月にかけて,2019年3月決算ディスクロージャー資料が開示されたことを受け,銀行勘定の金利リスクの計量において,最もインパクトの大きい銀行の負債サイドの流動性預金に焦点を当て,開示された金利リスクの計量結果から銀行経営の置かれた状況について考察を行う。具体的には,2019年3月末の地方銀行におけるコア預金の平均満期の開示結果などから,地方銀行の置かれた経営環境と,それに対する現在の経営の状況や経営方針について考察を行う。また,バーゼルの銀行勘定の金利リスクの概要,流動性預金のコア預金計測モデルの概要についてまとめる。コア預金計測モデルについては,ヒストリカル手法,AA-Kijima モデル,金利単回帰型モデル,景気参照型モデルの内容について整理し,各モデルのメリット・デメリットや留意点についてまとめる。