Abstract:
我が国においては、2016年の法改正によって、ようやく被疑者国選弁護制度が全ての勾留中の被疑者に適用されるようになった。しかし、弁護人の接見と捜査機関による取調べとの関係については、原則として取調べが優先されるかのように解されている。そして、そもそも接見前に取調べを行うことができるかという問題はあまり論じられてこなかったが、欧州人権裁判所においては多くの判断がなされてきた。この点に関連して、我が国においても、主として被疑者取調の「適正化」という視座から、欧州人権裁判所のサルダズ判決およびそれに引続く一連の判決――サルダズ原則(Salduz principle)とも呼ばれることがある――についての関心は高い。ただ、これまで欧州人権裁判所の判例は、弁護人とのアクセスを強化する方向で――いわば直線的に――進んできていると理解されてきたが、近年ではサルダズ原則に対する反革命(counter-revolution)とも評価される判例が現れてきている。以下では――本稿に先行する我が国の優れた業績にも拠りながら――サルダズ原則を整理した上で、近年における「反革命」ともいわれる判例を紹介して、弁護人とのアクセスに関する欧州人権裁判所の現在の立場を確認することにしたい。