ある一つの形を持つ図形をユニットとして、平面を隙間無くかつ重なり無く埋め尽くすデザインを作ることを、平面の正則分割という。正則分割においては、ユニットとなる図形の種類に応じて、図形を回転させたり裏返したりして、平面を埋め尽くすことでデザインを完成させることになる。オランダの版画家のM. C. Escher(エッシャー)は、数学的見地から正則分割のデザインを研究し、芸術的な作品を数多く残したことで有名である。このエッシャーの業績に敬意を表して、正則分割のユニットとなる図形は、「エッシャー風タイリング図形」と呼ばれることがある。本稿では「エッシャー風タイリング図形」のことを、単に、「エッシャー図形」と呼び、エッシャー図形を平面に隙間無く敷き詰めてできる繰り返し模様のことを「エッシャー風モザイク模様」と呼ぶことにする。
エッシャー図形の分類の仕方と描き方についてはいくつかの本に詳しく書かれている。最近では、エッシャー図形をコンピュータグラフィックスで自動的に描く試みも行われている。こうした研究は、自然科学的なアプローチからエッシャー図形を取り扱っているので、一般の人がオリジナルのエッシャー図形を作り上げるのは難解すぎるというイメージを持つかも知れない。しかし、一部のエッシャー図形の作り方に関しては、簡単に描けるような工夫が為され、一般の人を対象とした教養講座だけでなく、小学校の算数や中学校の数学の教育現場においても、創作の楽しさを体験する教材として提供されている。
本稿の目的は、多種多様なエッシャー図形を簡単な方法で作り出すことができるような教材を提供することである。具体的には、1枚の正方形の紙を切ったり貼ったりすることで、16種類のユニット図形ができることを示し、そのユニット図形のそれぞれが、エッシャー図形と関連していることを、エッシャー風モザイク模様を作り上げる過程を通して示すことを目的としている。
Publisher:西南学院大学学術研究所
Alternative:Seinan Gakuin University Academic Research Institute