抄録:
ひきこもりは、対人関係の悪循環、とりわけ家族との間に悪循環が生まれ、それが固定化したもので、治療は難渋しやすいことが定説になっている。しかし、ひきこもりを論じている様々な論考を通覧しても、そこにどのような対人関係の質的問題が生じているのか、その実態が今一つ具体的に浮かび上がってこない。その多くがひきこもりは対人関係の問題であると異口同音に指摘しながらも、具体的な理解と対処法になると、専ら「個」に焦点が当てられるばかりで、「関係」の質そのものが見えてこないのである。
それはなぜかといえば、臨床家の大半が「個」をみることを習い性とし、「関係の問題」と言いつつも、いざ「関係」をみようとすると、どのようにみればよいのか、よくわからないからではないか。
そこで本稿では、「関係をみる」ことによって、関係がどのように変わり、その結果としてひきこもりが消退したか、具体例を取り上げながら解説した。