抄録:
わが国におけるコーポレートガバナンスをめぐる改革の近年の主な動きとしては、平成二六年のスチューワードシップ・コードの策定、会社法の改正、平成二七年のコーポレートガバナンス・コードの策定後、経済産業省によるCGS 研究会(コーポレート・ガバナンス・システム研究会、座長・神田秀樹学習院大学法務研究科教授)により「CGS 研究会報告書〜実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引〜」として報告書が取りまとめられ、この報告書を基礎として、オブザーバーとして法務省および金融庁が参加した経済産業省による実務指針「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針」が策定・公表されている。さらに、平成二九年金融庁による「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」(座長・神作裕之東京大学大学院法学政治学研究科教授)において、「『責任ある機関投資家』の諸原則《日本版スチュワードシップ・コード》の改訂がなされ、金融庁と東京証券取引所によるスチュワードシップ・コードおよびコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議を経て、平成三〇年六月一日に、東京証券取引所などによるコーポレートガバナンス・コードの改訂がなされている。
会社法の見直しについても、商事法務研究会による会社法研究会(座長・神田秀樹学習院大学教授)が平成二九年三月に、『会社法研究会報告書』をとりまとめ、その後、法制審議会の会社法制(企業統治等関係)部会(部会長・神田秀樹学習院大学法科大学院教授)における平成三〇年二月一四日の「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する中間試案」を経て、平成三一年一月一六日、株主総会資料の電子提供制度、社外取締役を置くことの義務付けなどの内容を含む「会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱案」が決定されている。
このような、わが国におけるコーポレートガバナンス改革の動きと前後して、英国におけるコーポレートガバナンスに関わる改革が進められていた。本稿は、英国におけるコーポレートガバナンス改革において、グローバル化などのビジネス環境の変化の中で、企業の長期的成長を支え、取締役会の決定の合理性を担保し、従業員を含めたステークホルダーや社会全体の利益との調和をはかるため、どのような検討がなされたか、その概要を概観し、今後のわが国における会社法やコーポレートガバナンス・コードを含めた会社法制の方向性について、一定の示唆を得られないかを検討するものである。