抄録:
この数十年間、自閉症(スペクトラム)をはじめとする発達障碍の幼少期の病態を、大半の臨床家は脳(機能)障碍によってもたらされたものであると信じて疑わなかった。さらに、その後、学童期から成人期に至る過程で多様な精神病理が出現することがわかると、それは二次的なものであると説明されるようになった。しかし、アタッチメントの問題が次第に注目されるにつれ、このような考えに混乱が生じてきた。アタッチメント(愛着)障碍と発達障碍の関係をどう理解したらよいかという切実な問題に直面したのである。子ども虐待も発達障碍の一種であるとする考えがわが国で流布するにつれ、いよいよ両者の関係は混迷を極めてきたように見える。その最大の要因は、発達の問題を「個」から捉えることばかりしてきたからである。とりわけ生後1、2年間の幼少期に子どもが養育者との間でいかなる体験を積んでいるか、丁寧に観察しようとせず、この問題を多くの研究者がブラックボックス化してきたからではないか。そこで本稿では、この数年間に筆者が纏めた知見の概要を解説しながら、その内実を「関係」と「甘え(情動)」の視点から理解することによって、アタッチメントと発達の問題を統一的に理解できる道筋を示した。