抄録:
今から20年以上前、ハンス・キュング(Hans Küng)を中心とした「世界倫理(Weltethos/ a global ethic)」プロジェクトが開始された。このプロジェクトは、世界のあらゆる宗教的価値観の中に最小限の共通項を見出し、人間の幸福、世界の平和のための理念を形成することを目指している。しかし、この崇高な目的にもかかわらず、世界倫理は、様々な批判を浴びているのは何故なのか。本論文では、世界倫理の意味を、1993年の世界宗教会議で採択された、「世界倫理宣言(Declaration Toward a Global Ethic)」の内容を中心に解明し、さらにそれに対する批判の原因をさぐることを目的とする。同時に、世界倫理の構造上の問題点を考察しつつ、宗教を信じる者とそうでないものとの連携の契機を探ることを試みる。