抄録:
我が国の公的年金制度は,制度の維持可能性の面で危機的状況を迎えている.だが,それに対処する議論は財源調達方式に傾斜しており,年金の保険機能という本来の主旨からみたあるべき姿としての議論が十分になされているとはいい難い.この論文は,生活費のニーズに不確実性があるケースを導入したモデルを用い,さらに民間の保険市場を利用できない個人が存在するケースにおける公的年金システムの有効性を分析する.その分析によって,公的年金制度の持つ所得再分配機能の意義が明らかにされる.さらに,人口減少の状況下で長期的に年金制度を維持するためには,生活費ニーズの不確実性を低減させるような総合的施策が重要になることも議論される.