抄録:
この研究ノートは,マルコフ完全産業動学(Markov-perfect industry dynamics)の基本モデルを解説するものである。具体的な内容について述べると,Ericson and Pakes(1992)およびEricson and Pakes(1995)において構築された産業動学モデルの基本構造を列挙し,さらに提示された命題や定理の証明について,その議論の流れを丁寧に説明していくのである。Ericson&Pakesモデルの構造自体は簡潔であり,導かれる結果も明解であるものの,そこに至るまでの数学を用いた論理展開が複雑難解である。この複雑難解な議論を,可能なかぎり詳細に辿っていくことが本ノートの目的である。かかるノートは,今後,産業動学の研究を取り組む上で大きな助けになるものと期待している。なお,Ericson&Pakesの論文には,いくつかの誤り(と筆者が考えるもの)があるので,その部分の修正や表記の変更を施したうえで議論を進めていく。