Abstract:
本研究の目的は,複数の顧客区分と先行需要情報(Advance demand information, ADI)をもつ多段階生産在庫システムの性能を分析することである。顧客の区分は要求納期により,ジャストインタイム(JIT)納入と早期納入の2タイプに分類する。具体的には,平均総費用,平均製品在庫,平均仕掛在庫,および平均受注残を評価尺度とし,需要(顧客オーダー)の到着率や需要リードタイム,JIT納入比率,早期納入水準,基点在庫水準などの要因がシステムのパフォーマンスに与える影響を評価する。なお,顧客オーダーはポアソン過程に,各生産工程における生産リードタイムは指数分布に従うと仮定し,生産と在庫の制御は,基点在庫方式とかんばん方式を統合した拡張かんばん方式を採用する。このような多段階生産在庫システムを数理モデルで分析するのが困難であるため,不確実性のシステム分析に強いシミュレーション手法を研究手段とする。先行需要情報をもつ在庫システムに関する研究は,Hariharan and Zipkinから始まり,現在に至るまでさまざまな研究が行われている。ここでは基点在庫方式とかんばん方式を統合した生産在庫の制御方式および先行需要情報を用いるシステムに関する先行研究を概観する。まず,Liberopoulos and Koukoumialosでは,1段階および2段階の生産在庫システムを取り上げ,基点在庫基準やかんばん枚数,需要リードタイムなどの間におけるトレードオフの関係を研究している。その結論として,基点在庫基準,需要リードタイム,および計画生産リードタイムの間にはトレードオフが存在し,最適かんばん枚数はシステムの能力を決定し,需要リードタイムに依
存しないと報告している。次に,Krishnamurthy and ClaudioとClaudio and Krishnamurthyでは,3段階の生産在庫システムを取り上げ,需要の到着率やかんばん枚数,基点在庫基準,需要リードタイム,費用の比率などを変動させ,評価尺度である平均在庫,受注残,総費用を比較している。結論として,完全な需要リードタイムが利用できる場合,見込生産から受注生産へ転換できる。さらに,Claudio and Krishnamurthyでは,需要リードタイムの不確実性や顧客注文のキャンセル,非対称の先行需要情報なども研究している。また,Sarkar and Shewchukでは,上述した研究,と同様に3段階の生産在庫システムを対象としているが,生産指示の延期を行わず,早期納入が可能なシステムを提案している。これを含め,3つのシステムの性能を比較し,提案しているシステムが優れていると結論づけている。JIT納入と早期納入を同時に考慮する点は,本研究と先行研究の主な違いである。JIT納入は,需要リードタイムが経過した後,納期どおり需要を満たすのに対し,早期納入は製品在庫が早期納入水準以上ならば,早期に納入を行うことができることを意味する。換言すれば,早期納入はJIT納入より,柔軟性をもつ早期に納入が可能な方式である。本論文では,特にJIT納入の比率および早期納入の水準に注目し,システムのパフォーマンスを考察する。本論文の構成は以下のとおりである。2章では対象とする生産在庫システムを述べる。3章ではシミュレーションモデルおよび実験計画を論述し,そして4章ではシミュレーション結果を考察する。最後に,5章では結論を述べる。