Abstract:
1933年から1945年までのいわゆるナチズムの時代のドイツのキリスト教会について,以前は,告白教会を善玉とし,ドイツ的キリスト者を悪玉とする単純な対立図式だけで論ずる傾向が強かった。しかし近年はむしろ,この時代を生きたもっと多様な教会像を検討する論考が多く見られるようになった。たとえば,Philipp Thull (Hrsg.), Christen im Dritten Reich)においては,これまでにもよく見られた,DEK(ドイツ福音主義教会)内部の上記の闘争と,カトリック教会内の諸問題の検討の他に,いくつかの教派Neuapostolische Kirche,Mennoniten, Pfingstbewegung, alt-katholische Kirche におけるナチズム時代が,それぞれの著者によって論じられている。そしてその最後に,Karl Heinz Voigt)は,「自由教会」と総称で呼ばれる15の小教派(上記とも重なるが,メノナイト,バプテスト,バプテスト系の兄弟団,エリム教会,メソジスト,福音主義共同体,ヘルンフート兄弟団,自由福音教会,セブンスデイ・アドヴェンティスト,古ルター派教会,古カトリック教会,救世軍,ミュールハイム連盟,神の教会,(ペンテコステ系の)フォルクスミッシオン)について,それらがDEKの告白教会運動から疎外された状況を論じている。自由教会はナチズムと闘うことができなかったことを批判されることが多く,自由教会自身がそれについて苦い後味を抱いているのであるが,それは彼らのせいだけではなかったというのである。この発表で特に取り上げたいのは,ドイツのバプテスト同盟Bund der Baptistengemeinden(1942年にいくつかの小教派を統合して,福音主義自由教会同盟Bund Evangelisch-Freikirchlicher Gemeindenに改称した。現代もバプテストはこの名称を使用している)がナチズムの時代をどのように生きのびたのかについてである。それを私は,Günter Balders の論文「ドイツ・バプテスト小史」の第5章「第三帝国と第二次世界大戦の時代(1933-1945)」)にもとづいて紹介したい。その上で,自由教会としてのバプテストが,どのようなものであり,どのような点で優れ,またどのような点で限界を持っていたかを考察したいと思う。