抄録:
財務的・技術的にも十分な経営資源を持たない中小企業においては、新規事業展開を含むイノベーション活動には外部との連携が要求される。これまでも企業間の外部連携については寺本(1990)がイノベーションチャンスの創出を目的としたネットワーク構築の重要性を説くなど多くの研究が存在する。しかし財務に余力を持たない中小企業では、開発自体より開発から事業化までの財務的・時間的コスト削減の期待があるなど、大企業とは別の視点から論じた研究が必要である。過去の調査によると、外部との連携を行う中小企業の割合は高いものの、その目的の多くは、情報の収集や人脈の形成であり、結果として企業成長にはさほど貢献していない現実を見ることができる。他方、中小企業の新規事業の展開において実に7割の企業が過去に失敗を経験していることが示されている。この失敗する確率の高さと、外部との連携の貢献度の低さとの関係は非常に興味深い。外部との連携に際しては、相互の顧客ニーズ情報や所有する技術情報の移転の問題が生じる。これについてHippel(1994)は情報の粘着性(stickiness of information)」という概念を提唱し、イノベーションを実施する際に必要となる情報の移転を図る際に要する時間やコストとその影響について提言をおこなっている。さらに小川(1997)は、この「情報の粘着性」がイノベーションにおいてイノベーター決定の要因となりえることを実証している。中小企業の外部企業との連携による新規事業の失敗には、この「情報の粘着性」の影響があるとは考えられないだろうか?