Abstract:
フリーアクセス制度の下で、人々は医療資源を平等かつ公平に利用する権利をもっており、自分の病気の性質を考慮し、個人の好みによる医療機関を選択することができる。この制度自体は患者の選択権利を尊重するもとで創作された制度である。しかしながら、この制度を実施する際には医療資源浪費などの歪みを生んでいる。病気の症状を問わず、ただ漠然と先端医療施設の整った大病院で受診すると安心し、多少の時間もいとわず、経験豊富な名医に見てもらうというような風潮が生まれる。患者受診行動は何に影響されるかに関する研究は、日本においていくつかある。厚生労働省は3年に1回外来・入院患者別のアンケートを行い、回収された個票データに基づき患者の受診行動を分析している。平成23年の結果では、「大病院を選んだ理由」と回答した者について、外来は「医師による紹介」47.8%、次に「大きな病院で安心そう」42%、入院は「医師による紹介」56.8%、「以前に来たことがある」39%となった。こちらの結果は、「受診環境、医師技術」が患者の受診行動に影響することを示唆している。また、泉田(2004)は医療保険制度改定と入院医療サービス利用についてレセプトデータをパネル化することによって検討している。受診料引き上げによって医療需要を抑制することが難しいことを検証した。野口(2010)は医療資源の偏在が受診行動範囲に与える影響に関して検証した。結果は、入院に比して、日常的な通院を伴う入院外の方が移動に伴う機会費用が高くなり、また、移動距離が伸びることで診療実日
数は減るが、その分1日の診療内容が密になることである。本稿では、中国における病院等級が患者受診行動に影響を与えていたのか否か、について注目して分析を行う。日本の「大、中、小病院」と異なり、中国における病院には等級(ランキング)が付けられ、上から順に3、2、1級となる。2003年以来の統計データによれば、病院等級が高ければ高いほど医師1人当たりの取扱患者数が多くなり、病床の利用率も高くなり、3級病院では既存の病床でも患者の需要が満足できない状態となっている。すなわち高等級病院に大勢の患者が押しかけ、大量な仕事をうまくこなせない一方で、低等級病院の利用率が低い。患者が病院を選ぶ際には、病院等級が大きな影響を与えたと予想される。一方、級別で分けられた病院には、総合病院を除き、専門病院なども含まれる。専門病院は治療できる病気が限られているため、患者受診行動に影響を与える可能性があることが考えられるので、本稿においては、病院の所属行政区により分けられる5級の公立総合病院のデータを用いる。病院の患者が混雑しているか否かを医師の仕事量に体現するため、本稿においては医師1人当たりの取扱患者数を患者受診行動の代理変数とする。まず、最小二乗法(OLS)による病院等級と医師1人当たりの1日仕事量との相関を検証する。次に病院等級の内生性の問題が生じる可能性を考慮する。それは、病院等級が高ければ高いほど政府から取得した補助金が高くなったり、医師の診療報酬も高くなるため、最先端の医療設備や優れた人材を備え、設備や技術が患者受診行動に影響するか、それとも患者が集中して病院の医療収入を増加させるため、病院の等級に影響するのかが判断できないからである。そこで財政補助金・科研費と医師1人当たりの医療収入をコントロール変数として操作変数法(IV)による検証を行う。最後に、2段階GMM による推定する上で、内生性の確認とコントロール変数の適切さを検証する。上述の推定を通じて、以下の2点が解明できた。(1)病院等級が患者受診行動の代理変数である医師1人当たりの1日取扱患者数に影響する。これで、高等級病院では患者が混雑する一方で、低等級病院の利用率が低くなるという医療資源の浪費問題が生じる。(2)その要因は医療設備・施設、在勤医師の技術である。本稿の構成は以下の通りである。まず第2節で仮説を示し、第3節でモデルの定式化、第4節で使用データを説明する。第5節では最小二乗法(OLS)、操作変数法(IV)及び2段階GMM による検定結果が示される。最後では結語と今後の課題を述べる。