Abstract:
キリスト教再建主義(Christian Reconstructionism)は、20世紀後半にアメリカで登場した、政治、経済、法律、文化、芸術など、この世界のあらゆる領域を、聖書に基づいて再建することを目指す運動である。この運動は、R. J. ラッシュドゥーニー(Rousas John Rushdoony, 1916-2001)、ゲイリー・ノース(Gary Kilgore North, 1942- )、グレッグ・バーンセン(Greg L. Bahnsen, 1948-1995)、ケネス・ジェントリー(Kenneth L. Gentry, 1950- )、デイヴィッド・チルトン(David Harold Chilton, 1951-1997)、ゲイリー・デマー(Gary DeMar)など、改革派教会の流れを汲む神学者によって牽引されてきた。本研究の最終的な目的は、キリスト教再建主義の神学思想が、教理史・教会史的にどのような背景を持ち、「神の国の建設」という宣教(mission)の観点からどのように位置付けることが出来るかについて考察することである。しかし、そのためには、前提作業として再建主義者の問題意識を確認する必要がある。先行研究、特に再建主義を批判する立場からの研究の中には、再建主義者の主張や活動を余りにも「単純化」「ステレオタイプ化」して描き、彼らの実際の姿とは異なる形で伝えているものが少なからずある。勿論、或る対象について叙述する時、私達は自らの視点や立場に基づいて語ることになる。また、私達は、現実の複雑さを理解することよりも、現実を単純化して、分かり易くすることを好む。それ故、対象を全く偏りが生じることなく、余すところも不足するところもなく正確に伝えることは何人にも不可能である。だが、それが実像から懸け離れたものになってしまうとしたら、その言説は言葉による暴力に転落してしまう危険性がある。そこで本論文では、再建主義者が実際にどのようなことを問題にし、主張しているのか、「反律法主義との対決」という観点から、彼らの著書や論文を通して確認を行う。その上で、今後キリスト教再建主義の神学思想について論じていく。