抄録:
前回の論説では、覚せい剤の自己使用事犯における「否認形式の公訴事実」による訴因を取り上げ、検事としての実務経験を踏まえて検討を加えた。結論として、「否認形式の公訴事実」による訴因であっても、「審判対象の特定」の機能を害することはないだけでなく、「防御対象の限定」の機能にも欠けるところはないことについて、裁判例や実際に想定できる事例を前提として検証した。本稿では、殺人や傷害致死事犯等一般刑法犯における概括的訴因を対象として、判例や裁判例を分析・検討し、「審判対象の特定」や「防御対象の限定」という機能が果たされているかを検証する。特に、「防御対象の限定」という観点から、被告人・弁護人側からどのような防御がなされたのかを、判決文から読み取れる範囲で整理してみることとする。