抄録:
鉄道貨物輸送は、安全性、安定性、高速大量輸送、エネルギー効率、労働生産性、環境負荷等の観点において優位性が大きい。とりわけ輸送需要の大きい都市間における、コンテナ列車による長距離高速輸送は、わが国の鉄道貨物輸送の特性が最も発揮し得る分野である。鉄道の主要幹線における貨物輸送力の増強は、貨物輸送を自動車から鉄道に転換するモーダルシフトを促進する施策であり、社会的費用の抑制、少子高齢化の進展にともなう労働力不足への対処、希少なエネルギー資源の効率的な利用といった政策課題の解決に資するものである。しかしながら、わが国の鉄道は、周知のとおり主要幹線において旅客輸送の需要が大きく、既存の設備を活用するのみでは、貨物輸送力の増強は困難である。このため、主要幹線において、鉄道貨物輸送力の増強を目的としたインフラストラクチャーの整備(以下、鉄道貨物インフラ整備と略す)が近年実施されている。本稿では、これまで実施された鉄道貨物インフラ整備を概観し、整備後の効果を確認する。そのうえで、現行の鉄道貨物インフラ整備を評価し、今後の鉄道貨物インフラ整備に向けた課題を考察したい。鉄道貨物インフラ整備についての主な先行研究は、管見の限り以下のとおりである。佐藤(2005)、佐藤(2012a)、佐藤(2012b)は鉄道貨物インフラ整備の概要を詳細に記述している。他に佐藤(1998)、松永(2009)、Aoki(2009)、国土交通省鉄道局(2013)も鉄道貨物インフラ整備について述べている。鶴(2005)、近藤(2008)、小澤(2010a)、苦瀬(2010)、高橋(2011)は、モーダルシフトについての国の施策が不十分であると批判している。矢野・林(2009)は、鉄道貨物輸送ネットワークの整備は、国の政策として中長期的に検討されるべきものであり、短期的には制度面、資金面から対応が難しいと指摘している。鉄道貨物事業者により考察された先行研究としては鎌田(2000a)、鎌田(2000b)、鎌田・山本・舟橋(2001)、宮澤(2003)、村山(2007)、舟橋(2008)、Funahashi(2009)、日本貨物鉄道(2013)がある。