Abstract:
1962年11月に制定された「原価計算基準」は、原価計算の目的の一つとして価格計算目的を掲げており、その内容は原価に利益を加えて価格を計算する価格形成としての価格決定を想定している。この「原価計算基準」における価格計算目的は、1958年に日本生産性本部が刊行した『中小企業のための原価計算』の中で価格計算目的が規定されていたこと、そして防衛庁が防衛装備品の調達価格を見積る際に原価資料が必要となることから原価計算の目的に組み入れられることとなった。 防衛庁が調達する防衛装備品は調達物品等とよばれ、その契約見積価格である予定価格の算定方法は、1962年5月に制定された「調達物品等の予定価格の算定基準に関する訓令」(以下、「訓令」とする)において規定されている。「訓令」では、予定価格を算定するための基準となる計算価格の算定方法として、市場価格方式および原価計算方式を定めている。このうち、原価計算方式は原価に利益を加えて計算価格を算定する価格形成としての価格決定となっており、防衛庁が計算価格を算定する際には契約相手方から原価資料を入手する必要があった。そのため、「原価計算基準」の原価計算の目的の中に価格計算目的が掲げられることになり、「訓令」における原価計算方式が「原価計算基準」に価格計算目的を組み入れる一つの契機となった。そこで本稿では、「原価計算基準」に価格計算目的が組み入れられた一つの理由、契機となった調達物品等の予定価格の算定方法について、1975年改正以前の「訓令」に基づき検討する2)。調達物品等の予定価格の算定方法に関する先行研究として、東海は1975年改正以後の「訓令」に基づく市場価格方式および原価計算方式の計算構造を明らかにしている(東海
〔1999、2000、2004〕)。また、本間は戦時中から戦後の軍需品調達に使用される原価計算、その他の会計システム等の中で1975年改正以前・以後の「訓令」、「原価計算基準」を取り上げており、主に利子・利益の概念とその計算方法の変遷について考察している(本間〔2010、2011〕)。本稿では、調達物品等の予定価格の算定方法、とりわけ1975年改正以前の「訓令」における原価計算方式を研究対象とし、原価計算方式の製造原価ならびに経費率の内容、算定方法を検討するとともに、「原価計算基準」と比較できる項目については比較しながら考察を行う。なお、本稿での「訓令」の条文については、1975年改正以前のものを示している。